CRAZYの正体とは? 自分で考えるからこそ同じ目標に向かっていける 01

吉田 僕が岩倉社長に初めてお会いしたのは、一昨年のまだ専務でいらっしゃったときでした。ご挨拶に伺った翌日に社長就任が発表されてとても驚きましたが、前日にお会いできたのも何かのご縁だと感じていました(笑)。初めてお会いしたときどのような印象を持たれましたか?

岩倉氏 経営立て直しの時期を経て、やっと普通の会社になりましたが、しかしそれはあくまでスタートラインに立ったということだと思っている時期でした。これまでとは違うことをやっていきたいし、変えていかないといけないと思っていたときです。電通BXデザイン局(旧:電通ビジネスデザインスクエア)にはいわゆる広告代理店とは違ういろんな人材が集まっている。勝手ながら、これまで電通に抱いていたイメージと全く違って面白い、と思いました。

それと、経営コンサル会社の場合は目指すべきゴールをはじめからコンサルの方が持っていて、そこに行くためにどうするかを探りながら進むスタイルが多いと思います。しかし、皆さんからは「一緒に考えましょう」という言葉をいただいて、その言葉にすごく惹かれましたね。

吉田 僕らの造語で「シェルパリング」という言葉がありまして、シェルパというのは、登山をするときに同行する現地の人を意味しています。シェルパは登頂したことがある人とは限らないそうで、エベレストに人類が初めて登頂したときには言うまでもなく、シェルパも初めてだったという話があります。

「僕らは登ったことがあるから連れて行ってあげますよ」ということではなくて、「実は僕らも登ったことがないのですが、だからこそ一緒に考えませんか?」というスタンスをこの言葉に込めています。

岩倉氏 「CRAZY創造部」を立ち上げていよいよスタートするときに、皆さんが紹介してくれたが、全く我々の発想になかった企業や団体、あるいは個人の方だったことも印象的でした。それと色んな会社が今どんな方向を向いているかという話も、面白かったですね。クラシエとは違う考え方を皆さんから聞いて、目からウロコでした。

吉田 ビジョンを「CRAZY KRACIE」にしたときに、CRAZYの正体を敢えて社長の口から言わないようにされていて、混乱期と呼んでいたのが印象的でした。

岩倉氏 社長になったときに最初に「圧倒的当事者意識」という方針を掲げました。当事者意識を持つためにも社内で議論して自分なりの答えを見つけてもらいたいと思ったんです。先に私が答えを言ってしまったら、それが正解となってしまって、自分で考えなくなってしまいます。

「CRAZYって何なんだ?」って意見を戦わせて、結論を出すことで、やっと自分の腹に落ちて同じ目標に向かっていけると考えています。役職ごとに伝わる言葉も違うので、より分かりやすい言葉に変換していかないといけません。岩倉がこう言っていた、という伝言ゲームでは何も伝わりません。

CRAZYとは「新しい価値を創造し続ける」状態を社員ひとりひとりが考え行動していくことであることを伝える言葉として選んだのですが、いろんな解釈があって面白かったです。事業ごとに捉え方も違ったりしていましたが、全体感は外れていませんでした。

吉田 情報は簡単に探せるし、論説やロジックを切り張りしてもなんとなく話はできてしまいますが、だからこそ、一回自分を通して煎じ詰めて、自分はどう思ったか?どう考えたのか?ということが重要ですよね。今は、情報が多すぎて、自分がおいしいと思ったものが食べログで点数が低かったら不安になってしまう。それはある種、客観偏重すぎて主観をうまく使えなくなっている状況ともいえます。しかし、一方で楽しいとかワクワクするという感覚ってド主観ですよね。自分がどうしたいのかという、ド主観をビジネスにおいても使っていこうという意思を感じました。

「MiX」がキーワード。
交わることで新たな価値が生まれる 02

吉田 クラシエさんは「MiX」をキーワードに掲げていますが、世の中の流れ的にも脱自前主義とかオープンだとかよく言われていますよね。

岩倉氏 多くの企業が自前主義に限界を感じているように思います。専門性がある意味長所でもあり短所でもあって、専門性を高めても付加価値は高まってこないんですよね。

付加価値をつくるには自分たちとは違うところと組んで、価値を生むしかないと思って「MiX」しましょう、外に出ていきましょうと言っています。

吉田 今世の中にあるものって色んなものが交わって新たな価値を生んでいることが多いので、社外もですが、社内を「MiX」させることも大事ですよね。

岩倉氏 弊社の場合、日用品、薬品、食品と近い業界で業種がまたがっているのに、交わる機会は少ないように思ったので、この三つの事業を混ぜる試みはしています。研究所長会議や工場長会議を一緒に行うなどノウハウを共有する機会をつくっていて、徐々に浸透しつつあるという状況です。

事業間の壁は会社が危機的な状態のときにはハードルが下がって、安定すると高くなってくるのを感じます。安定すると守りに入って、自分たちのたこつぼに入ってしまいがちです。

吉田 そういった状況を打破するために、クラシエさんは横断連携を目的としたどの事業会社にも属さない特殊部隊、「CRAZY創造部」をつくっています。僕たちも「CRAZY創造部」と連携しながらどんどん混ぜっ返しのきっかけをつくっていければと思っています。

他社と「MiX」して交わっていく中でも、ここは譲ってはいけないというクラシエらしさはどこにあるとお考えですか?

岩倉氏 経営理念である「人を想いつづける」、これさえ外さなければ、いいです。品質面でもサービスでも絶対に期待値を裏切らないこと。クラシエで働く社員を想いつづけて、商品を使うお客様を想いつづける。それだけですね。

吉田 その例えで「車つくったっていい」っておっしゃっていたのをよく覚えています。僕はよく「行先と在り方」という話をするのですが、どこに向かっていくのか、社会をどうしたいのか、というのが目的地や行先だとすると、ここに行くためにどんな船にしていくのかというのが在り方だと考えていて。ちょっと様子がおかしくなっている会社は、行先が分からないのに在り方にこだわっていることが多くあります。

会社のルールや、過去の実績、前例などももちろんある程度は大事かもしれない。でもそもそもそれらは何のためのルールや前例なのかというと案外答えられなかったりもします。行先をみんなで共有していれば、どんな船を使ってもいい、行き方は自由ということは、我々電通BXデザイン局としても大事にしていることです。

世の中の役に立つことをやり続けるために、100年企業を目指す 03

吉田 我々がプロジェクトをご一緒させて頂くようになって、1年半近くになりますが、最近は社員一人一人がプロジェクトごとに人を集めて自発的に仕事をする人たちも増えてきているように思います。外に出ていこうという中で、クラシエという会社の輪郭とか会社の未来はこれからどうなっていくのでしょうか。

岩倉氏 会社がなぜ100年続くのかというと、そこに社員の想いがあるからだと思います。企業理念がど真ん中にあり、その想いがあるからこそ良いものを長く提供できる。私が「100年企業を目指す」と言っているのは、そういう組織体でないと世の中のためになることをやり続けることができないと思うからです。 100年後のクラシエは今とは全く違う事業をやっているかもしれません。ただ「人を想いつづける」という理念に関与したいろんなサービスや商品があって、常に期待を裏切らない良いものを提供している。迷ったときにはクラシエの商品を選びたいと思ってもらえるような会社になっているといいですね。

吉田 暮らしは人間が生きている限りなくなりません。クラシエは暮らしの会社で、「人を想いつづける」という背骨の部分が揺るがなければアウトプットは色々変わっていってもいい。その中で高いクオリティーで驚きを持った良いものを世の中にCRAZYにつくり続けていきましょう。